「友だちには利益を与え、くそったれ野郎には損害を与えることさ! ヒー、ハー!!」とマルコシアス。
「正義="友には善いことをし、敵には悪いことをしてやること"」
この定義に対して、シャナが検証を始めました。
シャナ 「医術っていうのは、何に対して、何を与える技術のこと?」
マルコ 「ッハッハー! 身体に対して、薬や食べ物や飲み物を与える技術のことに決まってんだろうが、お嬢ちゃん!」
シャナ 「じゃ、料理術は?」
マルコ 「食材に対して、美味い味を与える技術に決まってらあ! ヒー、ハー!!」
シャナ 「いいわ。じゃ、正義は? 何に、何を、与える技術のことを言うの?」
マルコ 「それはな、おちびちゃん! "友だち"には利益を与えてやり、反対に"くそッたれ野郎"には人生最悪の日を与えてやることさあ!! ハッハァー!!」
シャナ 「じゃあ訊くけど、"友だち"と"くそったれ野郎"の両方が病気で苦しんでる場合に、『友だちには利益を、くそったれ野郎には人生最悪の日を与えるための技術』をいちばん持っているのは、誰?」
マルコ 「医者だろうが!」
シャナ 「同じ船に乗り合わせてた場合、航海上の危険に関しては?」
マルコ 「船長だろうぜ! ギャハハーー!」
シャナ 「それじゃ、正義の人は? 彼または彼女は、どういう場合に、どういう仕事に関して、『友だちには利益を、くそったれ野郎には人生最悪の日を与えるための技術』を、いちばん持ってるの?」
マルコ 「そりゃおめえ、戦場で、敵をぶっとばす仕事や、味方を助けてやる仕事に関してだろうがよ! ヒー、ハー!!」
シャナ 「ふううん。でもね、バカマルコ。病人が一人もいない時、医者は要らないわよね」
マルコ 「誰がバカマルコだあ!!」
シャナ 「え!? だ、だっていつも、そう呼ばれてた」
マルコ 「そう呼んでいいのは我が麗(うるわ)しのゴブレット、マージョリー・ドーだけなんだよお!!」
シャナ 「ご、ごめんなさい。悪かったわ。謝る……ごめんね戦闘きょ……"蹂躙の爪牙(じゅうりんのそうが)"」
マルコ 「今度言ったら、いつかみたいに炎弾の集中豪雨をプレゼントしちゃうぜえ、灼眼の嬢ちゃんよお!! また火だるまになって真名川に落っこちてえのかい、 ヒ、ヒ!」
シャナ 「う……あの時は……。でも今の私には悠二がいる。……あの時みたいにはさせるもんか」
マルコ 「何か言ったかい、おちびちゃんよおーー!」
シャナ 「なんにも。………あらためて訊くけど、病気でないなら、医者は要らないわよね?」
マルコ 「たしかにな! 灼眼のおちびちゃん!」
シャナ 「船に乗っていない時は、船長は要らない」
マルコ 「おおよ」
シャナ 「じゃ、戦争がない時には、正義の人も要らないの?」
マルコ 「んん!? いや……そんなわけねぇだろ、ハッハァー!……あれ? 待て待て……あー、うん、そんなことはねえ!」
シャナ 「すると、戦争のセの字もない場所でも、正義の人は要るのね?」
マルコ 「おお……要るだろうともさ!」
シャナ 「どういう時に?」
マルコ 「そうさな……契約とか、約束ごとをする時にさ!」
シャナ 「それって、いっしょに組んで何かをするなら信用できる奴とでなきゃ、ってことよね、"蹂躙の爪牙"?」
マルコ 「そうそう、それが言いたかったのさ、お嬢ちゃん!」
シャナ 「ところで、あなたが出版社を設立して雑誌を出すなら、いっしょに仕事したいのは正義の人? それとも編集者?」
マルコ 「編集者だろうがよ!」
シャナ 「佐藤の家に地下室を増築したい。工事の契約を交わす相手は正義の人? それとも建築技術者?」
マルコ 「建築技術者だろうがよ!」
シャナ 「それじゃ、いったい何をいっしょにする場合に、正義の人といっしょでなきゃだめなの? ちょうど、漫才コンビを結成しようと思ったら、笑いを取れる人のほうが、正義の人よりも相棒として向いているのと同じような意味でよ?」
マルコ 「まあ、ずばり金(カネ)だな。金に関する行動をいっしょにやらかす場合に、だろうぜ!」
シャナ 「ただし、お金を"使う"場合は別として、ね? だって例えば車の売り買いの際に助けになるのは正義の人じゃなくて、車の専門家だものね」
マルコ 「そうだなあ」
シャナ 「じゃあ、お金をいったいどうするときに、正義の人の助けが欲しいの?」
マルコ 「そりゃあもちろん、金を預けたり、"保管"したりしなきゃいけねえときにさ、お嬢ちゃん!」
シャナ 「つまり……お金を使わないで、そのまま、置いておかなきゃいけないときに、ね?」
マルコ 「そうだ、その通りだぜ、おちびちゃん! ヒー、ハー!!」
シャナ 「すると、よ。マルコシアス、正義ってものは、お金が使われない時にこそ、本領を発揮するのね?」
マルコ 「どうもそういうことになるみたいだなあ」
シャナ 「お金じゃなくても、たとえば、切れ味のするどいマサカリをしまっておかなきゃいけない時なんかも、正義が求められると思うんだけど……いざ引っぱり出して使う段になると、求められるのは木こりの技術よね」
マルコ 「そうだろうぜ」
シャナ 「危険な武器にしろ高価な楽器にしろ、ただ保管して守るだけで、ぜんぜん使われないときに欠かせないのは正義だけど、それらを使うときに欠かせないのは、武器術であり演奏技術よね」
マルコ 「おお、その通りだぜ、 お嬢ちゃん!」
シャナ 「それじゃ正義の人って、ある道具を使う場合にじゃなくて、使わずにしまっておく場合にこそ、欠かせない人なわけね?」
マルコ 「どうもそうらしいなあ! ッハッハァー!!」
シャナ 「はぁ。なんだかそうなると、正義って、あんまり魅力的なシロモノじゃない気がしてくるわね。使われずにいる時の道具を守るためにしか必要とされないっていうんじゃね。
ところで、守るっていえば……
組み打ち術にせよ武器術にせよ、闘うにあたって敵を打ち倒すことに最も有能なファイターは、敵の技から自分を守ることにかけても最も有能なのと違う?」
マルコ 「そりゃ、そうだろうさ」
シャナ 「人を洗脳する技術に詳しい博士は、人を洗脳から守ることもできるんじゃない?」
マルコ 「当然そうなるよなあ!」
シャナ 「敵軍の機密情報を盗み出すのが上手な潜入工作員は、軍隊の優れた守り手でもあるわけ」
マルコ 「なんでそうでないことがあるかよ!」
シャナ 「すると……優れた守り手(守護者)は、実は、優れた盗み手(攻撃者)でもあるわけよ、ね」
マルコ 「俺たちフレイムヘイズだってそうだろうが! 基本だぜそんなのは! ハッハァ!!」
シャナ 「つまりね、正義の人は、お金を守れる人であるからには、お金を盗める人でもあるんじゃない?」
マルコ 「話の流れからいくと、そういうことになっちまうわなあ!」
シャナ 「盗み方を知らなかったら、守り方がわかるはずがないもの」
マルコ 「おおよ! まったくだぜ、 ヒー、ハー!」
シャナ 「うん。どうやら正義の人の正体は、一種のドロボーだってことがハッキリしたみたいね。正義って、"蹂躙の爪牙"マルコシアス、おまえによれば、斬ったり殴ったり盗んだり奪ったりすること、なわけよね。ただしそれは、『"友だち"には利益を、"くそったれ野郎"には人生最悪の日を与える』ためのものでなきゃならないけど……おまえが言おうとしていたのは、こういうことじゃないの?」
マルコ 「じょ、冗談じゃねえぜ!! おちびちゃん!!」
(つづく)
<キャラ元>『灼眼のシャナ』高橋弥七郎 著/電撃文庫
<出典>『国家』プラトン著 藤沢令夫役/岩波文庫
愛すべき戦闘狂マルコシアスは、「戦闘技術(闘う、とう行い)」を、「正義」と誤認していたわけです。
そのことをお見通しのシャナは、医術や料理術、航海術など、さまざまな「技術(行い)」をあげ、「正義」をそれらといっしょくたに並べて見せることで、あたかも正義が技術(行い)の一つであるかのようにして対話を進めながら、間違いを浮かび上がらせ、「技術(行い)は善にも悪にもなりうるでしょ。正義は技術(行い)とはカンケーないのよ」ということを、徐々に明らかにしていくのです。
最後には、お金を守る技術(行い)すら「正義とはカンケーない」ことが判明します。お金を守る技術(守りの行い)は、お金を盗む技術(攻めの行い)の裏返しだからです。
お金の管理にこそ、正義は欠かせない!とマルコシアスは言いますが、お金の管理に欠かせないのはやっぱり善にも悪にもなりうる"技術(行い)"であって正義ではなかったわけです(たとえばカツアゲで得たお金を、取り返されないよう守るのに正義は役に立ちません)。
ところで、マルコシアスの考えについてですが、
「戦闘技術とは、友に利益を、敵に損害を与えること」 これなら、意味が通ります。
「正義とは、友に利益を、敵に損害を与えること」 これだと、大変なことになります。
もしそれが正しいなら、
日本と北朝鮮、
また、
ジオンと地球連邦、
はたまた、
スーパーマンとレックス・ルーサー
とでは、正義に基づく行動内容が逆転してしまいます。
立ち位置によってコロコロ変わるようなものは、定義とは呼べません。
全宇宙の全生命体が、ひとしく依り頼む支柱ではなくなってしまうのですね。
正義の定義ではなく、戦闘技術(闘う、という行為)の定義ということなら、「友に利益を、敵に損害を与えること」で正解でしょう。
国防の任にあたる兵士は、むしろマルコシアスに似た人でないとなりません。せめて「ランボー思考」は全員に持っていて欲しい。私がもし国境付近に住む娘だったら、絶対そう思います。防人(さきもり)の理想形はランボーで決まりでしょう。
今の日本があるのも、過去、国難の際に、無数のランボー者たちが「友に利益を、敵に損害を」与えつづけてきたからです。
日本が植民地化されなかったのは、ランボー者たちのおかげです。
どれだけ優れた文化を誇る国でも、ランボー者を否定したら、いずれ必ず外国にやられ、文化を消されるのです。
ちなみに、原典『国家』(プラトン著 藤沢令夫訳/岩波文庫)でこの考えを述べている人物の名は「ポレマルコス」といいまして、なんとなく「バカマルコ」と似通ってたので、こういうことになってしまいました(笑)
ごめんね、戦闘きょ……"蹂躙の爪牙"マルコシアス。
なお、今回は原文をそっくりそのまま転載するのが正直面倒なので、やめました。
もし、原文を読むのが楽しみなのに、という方がいらっしゃいましたら、すいません。
つづきはいずれアップします。
とりあえず、正義は「物理的な行為」ではないことが明らかになりました。な、なりましたよね?
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